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#056 【和風】 [世界の終りに贈る歌 II]

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「あたし、そんなこと言ったかしら・・・」

「ついさっきですよ?自分で言ったことも忘れちゃってるんですか?」


 僕はすっかり呆れてしまった。



「あたし、会わないなんて言ってないわよ?」

 眉間に皺を寄せて、どうやら本気で悩んでいる様子。

「言いましたよ。後ろ向いて、マフラーを取った時。ここに来るのをやめる・・・」

「あぁ~!それぇ?」

 急に大声を出して、ほの香先生は笑い出した。

「やだぁ・・・もう、驚かさないでよ。それ違うわよ。勘違い。早とちり。もう、司くんったらぁ」


 ころころと笑いながら、先生は僕を抱きしめた。

「ちょっ・・・ちょっと」

 コートを着てるとはいえ、そんなにきつく抱きしめられたら・・・

「あははぁ~。赤くなっちゃって、やっぱり司くんってばかわいい」

 僕の顔を覗きこんで笑い続ける先生。こっちはそれどころじゃないってのに・・・

「だっ・・・だから、ちゃんと説明してくださいよっ」

 先生をようやく引き剥がしながら、僕は文句を言った。

 でも先生はまだ笑っている。

「だって・・・勘違いしちゃって、そんな悲しそうな顔して」

 くすくすとしながら言われると、どうしても莫迦にされてる気になって来る。


「別に悲しくなんて・・・」

「じゃあもう来ないわよ?」

 咄嗟に振り返ってしまった僕を、余裕の笑みで見つめる先生。

「ふふ。う・そ」

 またこれだ・・・僕はため息をついた。どうしてもこの人には振り回されてしまう。

「やぁねぇ、勝手に勘違いしたのに、被害者みたいな顔しちゃって」

 先生は膨れてみせる。

 ・・・か、かわいいなんて、絶対思わないぞ。 

「だからね、水曜日にはどこか行こうか、って言おうと思ってたのよ」



 ほの香先生は笑顔のまま優しく言った。

「・・・え?どこかって」


 『どこか』で、真っ先に頭の中に思い浮かんだのは・・・でも・・・

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