#019 【羅針盤】 [世界の終りに贈る歌]

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 母のお気に入りになりそうなほの香先生。

 どうやら彼女を口説く時には、慎重にならなきゃいけないようだ。


 もっとも、今までになかったタイプなので、攻略する楽しみができたとも言えるけど。



 最初の数週間は、ずっと僕の家で勉強していた。

 合間に交わす何気ない会話や、母とお喋りするほの香先生を、僕は時間を掛けてじっくりと観察する。

 他の女の人たちにあるような、無防備な隙ができる瞬間や、女性特有の媚びる瞬間を見極めるために。

 でもほの香先生は、今まで知り合った女性のどのタイプにも当てはまらなかった。


 お茶とお菓子を持って来たついでに、30分も居座ってた母がようやく部屋から出て行く。

 すっかり冷めてしまった紅茶を飲んでいる先生に、僕は問い掛けてみる。

「ほの香先生ってさ、なんで母さんなんかに付き合ってんの?」

 母がいる間に、僕の方は問題集の文章題を30問解き終わった。つまり、先生はそれだけの時間を無駄にしてしまったということだ。

 僕の言葉を聞いて、先生はため息をついた。 

「そんな言い方しちゃいけないと思うわ」

 先生のために言ってるのに、そういう言われ方はちょっと心外なんだけど。椅子を回して向き直り、僕は新しい本を開く。

「でもさぁ・・・料金外でしょ?」

 先生はくすりと笑う。お金なんて関係ないとでも言うように。

「それはそうだけどね。でも、お母様も楽しそうにお話してくださるもの。私も嬉しいわ」

 でも、結局みんな、お金が欲しいから僕の相手をしてるんだろうにさ。ほの香先生はいつまで澄ましていられるかな。

 身体の関係がないなら、尚更・・・今までの『先生』たちも、みんなそうだった。



「司くんは、誰かとお話するのがあまり好きじゃないのかしら?」

 ほの香先生はそう言って、ケーキを一切れ口に運ぶ。僕はそれを横目で見ながら答える。


「相手と内容によりますけどね」

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