#055 【屋外】 [世界の終りに贈る歌 II]

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 一言訊けばはっきりするのに、僕にはその一言がどうしても言えなかった。

 ほの香先生はコートを羽織る。僕の様子には気付いていないようだ。


 そして、着替えが入っているためにいつもより少し大きなバッグを手にして振り向いた。



 僕の顔を見るなり、先生は目を丸くした。

「どうしたの?司くん。顔色悪いわよ?」

 そしてバッグを投げ出し、頬に手を当てる。

「熱は・・・ないわよね。寝不足させちゃった?ゆうべ、そんなにうるさかったかしら」

 先生の手はしっとりと冷たい。そしていつもいい匂いがする。

「違いますよ。別に、なんでもないです」

 僕はそっと手を払って首を振る。

「そう?でも・・・身体がそんなに丈夫じゃないから、って、お母様には言われてたのに・・・」

 先生は心配そうに僕の顔を覗き込む。


 この人は鈍いのか意地悪なのか・・・そう考えながら視線を逸らした。

「しばらく会わないんなら、別にいいじゃないですか。僕のことなんて」

 『しばらく』なんて言葉、先生は言ってない。ただ『来ない』と言っただけだ。

 なのに無意識に足してしまった自分の弱さに気付く。

 僕がこんなに想っているのに、この人は僕のことなんてまったく・・・


「しばらく会わないって、どうしたの?司くん、あたしのこと嫌になっちゃった?」

「・・・はぁ?」

 思わず間抜けな声を上げて、僕は先生に視線を戻した。先生も同じように僕を見ている。

「それはそっちでしょう。だって先生が言ったんですよ、来ないって」

 吐き捨てるように言うつもりが、まるで拗ねた子供のような声になってしまった。

 ばつが悪い気分で先生を見ると、何故か顎に指を当てて考え込んでしまっている。



「あたし、そんなこと言ったかしら・・・」

「ついさっきですよ?自分で言ったことも忘れちゃってるんですか?」


 僕はすっかり呆れてしまった。

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