#001 【空虚】 [世界の終りに贈る歌]

「先生、そろそろ休憩しない?」

 僕はシャープペンシルを置き、伸びをしながら言う。

 今日のノルマは80%以上こなしただろう。残りを片付けるのには1時間も必要としないはずだ。

 ノゾミ先生は、僕の言葉で小さく息を飲んだ。横目で見ると、心なしか頬が紅潮しているようにも見える。



 これから僕たちは、少しだけ長めの『休憩時間』に入る。



 薄暗いノゾミ先生の部屋で、僕は手探りをする。

 本当は明るい方がいいんだけど、こればっかりはしょうがない。

 経験が少ないと言ってた通り、まだ恥ずかしさがあるらしい・・・変なの。この前は、あんなに乱れてたくせに。

「せんせぇ・・・まだ恥ずかしいの?」

 僕は彼女の小さめな胸に手を置き、耳元で囁く。

「・・・意地悪・・・」

 彼女は甘えた声でつぶやくと、うっとりとした表情で眼を閉じる。


 答えになってないよ先生・・・

 僕は冷めた眼で見下ろしながら、枕元の小さな包みに手を伸ばした。



 ノゾミ先生は22歳。大学で物理学を専攻しているらしい。

 そして僕の8人目の家庭教師。女性では3人目だ。

 普段はひっつめた髪に小さい眼鏡。オトコに興味なさそうな顔して講義を受けているんだろうな・・・

 その様子を想像すると面白い。

 今、僕の下で声を殺している人と同一人物だとは思えない。

 まさか彼女も、自分が9つも下の子供に泣きながらしがみつくような女だったとは、思ってもみなかっただろうけど。



「先生さ、彼氏とかいないの?」

 『休憩』が終り、また澄ました顔で課題に取り組み始めた僕は、ノゾミ先生に問い掛ける。



 まださっきの熱が残っている表情をしたノゾミ先生は、普段のひっつめ眼鏡よりも数段美しいと思う。

「彼氏なんて作っている暇はないわよ。専門課程って、真面目に受けていればそりゃぁ忙しいんだから」


「ふぅん・・・じゃあ、僕の家庭教師やってる時間も、本当は惜しいんじゃないの?」

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