#051 【セルロイド】 [世界の終りに贈る歌 II]

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「先生、そろそろ休憩しない?」

 僕はシャープペンシルをくるくると回しながら時計を見る。

「ふぅん・・・いいわよ?」

 眠そうな声で答えるのはほの香先生・・・僕の『彼女』だ。


 つい先生の様子に微笑んでしまってから、僕は慌てて眉をしかめる。

「職務怠慢ですよ先生。僕が一所懸命勉強してるってのに、今うたた寝してたでしょう」

 先生は胸の上に伏せていた本を閉じて伸びる。

「ぜぇんぜん、寝てなんていなかったわよぉ・・・」

 その声はいかにも眠そうな・・・いや、寝ていたような声。

 ため息をついて立ち上がる僕に、先生は声を掛ける。

「あ、司くぅん。冷蔵庫の中にプリンパイがあるんですって。お茶は何がいいかしら?」



 母が待ちかねていたように僕を迎えた。

「そろそろ休憩かと思ってたのよ。お紅茶がいいかしら」

「ん~・・・どっちでも。でもコーヒーの方がいいんじゃない?お母さんも」

 母の目の下にはうっすらとクマが出来ている。

 どちらかというと色白な方なので、そういうのは目立つ。

「やだぁ・・・寝不足なのわかっちゃう?じゃあコーヒーにしましょうね・・・」

 歌うように言いながら、母は僕たちと自分のためにコーヒー豆を選びだした。

「まぁ、楽しいのはいいんだけどさ・・・」

 ため息混じりにつぶやく声は、ミルの音に消される。


 実際のところ、母は僕とほの香先生が『交際』しているのをどう思ったんだろう。



 僕がうっかり先生に告白してしまったのは3週間ほど前のこと。

 先生は笑顔で承諾してくれたけど、実は早まったのかも知れない、と今でも少し後悔している。



 僕が告白した当日、ほの香先生は僕を送り届けた時出迎えた母に向かってこう言った。

「あたしたち、お付き合いすることになりました。でもお勉強は手を抜きませんから、今後ともよろしくお願いします」


 にっこりと余裕の表情で微笑む先生に対して、母は・・・多分僕も、驚きで眼を丸くしていた。

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