#053 【荊】 [世界の終りに贈る歌 II]

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 これじゃまるで、お付き合いごっこじゃないか。

 ほの香先生に、相変わらず子供扱いされているのも結構癪に障る。


 早くチャンスを作らねば、どうにかなってしまいそうだ。



 母は当たり前のように3人分のパイを用意した。

 階段でふらついたら困るので、僕がコーヒーのポットとカップ一式を持つ。

 僕の部屋のミニテーブルは、3人で囲むと正直狭い。

 それでも、先生と母は仲良く膝を並べている。

 こうなると最低でも1時間は掛かるので、諦めるしかない。

 僕は黙々とプリンパイを口に運びながら、昨日買ったばかりの本を開いていた。


「・・・いつにしましょうか。ねえ?つ~ちゃん」

 コーヒーを飲み干した時に、急に母に話を振られた。

「なんの話?」

 ポットにかぶせてあるコゼーを取りながら、興味なさそうな声で返す。

 『ティーコゼー』という名称はあるのに、何故『コーヒーコゼー』とは言わないんだろう・・・

 そんなどうでもいいことをぼんやり考えながらちらりと先生を見る。

 少し前までの母は声色で察してくれていたのに、最近はお構いなしだ。

「聞いてなかったの?先生とね、一緒に水族館に行こうと思うのよ。進もそろそろ遠出できるだろうし」


 先生はにっこりとしながら僕に言う。

「司くん、イルカのショーを観たいって言ってたわよね?」

 そういえば話の流れで言ったかも知れない・・・でも、そんな乗り気ってわけでもないんだけど。

「幼稚園の親子遠足で水族館に行った時は、バス酔いが酷くてそれどころじゃなかったのよねぇ」

 母の言葉に、ほの香先生がふわりと笑う。

 まったく、余計なことを・・・僕の数少ない汚点だというのに。



「普通の車なら平気だったんだよ。でもバスに乗ったのは、その時が初めてだったから」

 僕の言葉で、先生と母がふふっと笑い合った。


 この人がうちに来るようになってから、僕のペースは崩されっぱなしだ・・・

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