#033 【ハーブ】 [世界の終りに贈る歌]

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「あ~もう、可愛いなぁ。司くんったら。あたし、こんな弟が欲しかったわぁ」

 僕はついムキになって先生の手を払った。


「いい加減、子供扱いはやめてくれませんか?僕はそんなにガキじゃない」



 一瞬、ほの香先生の目が丸くなった。

 しまった・・・僕は心の中で舌打ちする。『いい子』はこんな風にキレたりしちゃいけないんだ。

「いや・・・あの・・・」

「か、あ~ぁわ、い~い!」


 慌ててフォローしようとした僕の台詞は、先生の嬌声に遮られた。

 通りすがりの人たちが少し鬱陶しそうな視線で僕たちを見る。

 あぁもう、これじゃまるで、年の差カップルがいちゃいちゃしてるだけみたいじゃないか・・・


「やだぁ~、もぉ~。ほんとに、司くんが弟だったらよかったのにぃ」

 先生は人目も気にせずはしゃぎ続ける。

「いや・・・その・・・ほら、人目もあるから、ね、先生」

 なんで年下の僕が保護者っぽくなってるんだろう・・・そう思いながら僕は小声で言う。

「なによぉ。こんなオバサンとカップルだと思われるのが嫌だっての?誰もそんな風に見やしないわよ」

 けらけらと笑った先生の言葉で、何故か僕の胸がちくんと痛んだ。


 ひとしきり笑った後、ほの香先生は覗き込むようにして僕の顔を見る。

「そんなにガキじゃない、って、言う時点でガキなのよ」

 勝ち誇ったような微笑みに、僕はむっとする。

「もうちょっと年取ったらねぇ、そんな時代もあったわねぇ~、とか、懐かしく思い返しちゃうもんなのよ」

 そう言う先生の横顔は、どこか遠くを見るような目つきだ。

 僕はふと、つい今しがたの不快さを忘れて問い掛けた。

「先生も・・・そんな風に懐かしくなるんですか?」



 って、そんなこと訊いてどうするんだ僕は。

 でもほの香先生は、僕を見てまた微笑みながら答えた。


「懐かしいっていうか、先生は今でもガキで困っちゃうわ」

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