#036 【クリーム】 [世界の終りに贈る歌]

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 ・・・あぁ、またうっかり誘導尋問に乗せられたのかも知れない。

「ふぅ~ん、そ~なんだぁ~」


 勝ち誇ったような顔には、『いいこと聞いちゃった』と大きく書いてあるようだ。



 僕は憮然としながらスープを飲み干す。

「って、誤魔化さないでくださいよ。先生に訊いてるんです」

 すると今度は一転、きょとんとした顔でほの香先生は僕を見つめた。

「なんで知りたいの?」

「なんでって・・・」

 改めて訊かれると逆に困る。ただ少し困らせてやろうと思っただけなのに。


 プチトマトを指でつまみながら先生は言った。

「ひょっとして、先生のこと、好きだったりしてぇ?」

「ちがっ・・・!」

 僕が慌てて否定すると、先生は口元に手を当てて笑う。

「あははっ。司くんってやっぱり可愛い」

 口元に、真っ赤なプチトマトが揺れる・・・それはやけに印象的だった。



「・・・今はね、いないわよ」

 インゲンのソテーをフォークに刺して、先生はため息と共に言った。

「えっ?」

「改めて訊き返さないでよ」

 先生はインゲンを頬張る。

「あ、ごめんなさい」

 って、なんで謝らなきゃいけないんだろう。

 先生もそう思ったのか、苦笑しながら言葉を続けた。

「大学にね、サークルの先輩で、すごく素敵な人がいたの」

 先生は小首を傾げて僕を見る。『続き、訊きたい?』というように。だから僕は小さくうなずいた。


「人生観っていうのかな。考え方とか、あたしなんか足元にも及ばないって感じで・・・気付いたら尊敬から『好き』に変わってた」

 夢見るような視線は、丸っきり恋する乙女の風情。僕はその表情に少し嫉妬を覚えた。

「振られたんですか?」

「さっくりと言うわねぇ・・・」

 先生は苦笑した後、ため息をついてつぶやいた。



「その人病気で・・・もう、いないの」

「・・・え・・・?」


 その瞬間、胸がずきりと重く、痛くなった。

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