#037 【ライラック】 [世界の終りに贈る歌]

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「その人病気で・・・もう、いないの」

「・・・え・・・?」


 その瞬間、胸がずきりと重く、痛くなった。



「あの、亡くな・・・」

「なぁんて、ね」

 ついさっきまでの重苦しい表情から一転、ほの香先生は明るく言う。

「ふふっ。びっくりした?」

 まったくもう・・・僕は大袈裟にため息をついて眉をしかめる。

「先生も、性格悪いって言われませんか?」

「も、ってことは、司くんは自覚してるのねぇ」

 きゃらきゃらと笑って、先生は言い返す。頭痛がして来た。


「だから僕の話じゃなくて・・・」

 僕はこめかみに手を当てて眉をひそめる。

「できてるじゃないの、司くん」

 先生は急に、にっこりと優しい微笑みで嬉しそうな声を出す。

「何がですか?」

 ずっと振り回されっぱなしで、何一つ満足にできてないのに。

「普通の会話」

 短く言うと、先生は少し大きめに切ったステーキを口に運んだ。


 普通の会話・・・?

 あぁ、そういえば僕の部屋でそんな話をしたっけ。

 果たして、今の会話の流れを『普通』というかどうかはわからないけど。

「その様子だと、お友だちと普通の付き合いができてるみたいね」

 優しい微笑みのまま、先生は言う。

「別に、友人がいないなんて、言ってませんよ」

 少し拗ねたような言い方になってしまい、ばつが悪い気持ちで、僕はちらりと先生を盗み見た。

 先生はまったく気にしていないようにサラダを食べ切ると、またステーキを一口分切り離しにかかる。


 友人と言った時に、イサムの顔が浮かんだ。

 でもイサムは、僕がこんな情けない顔をするなんて見たことがない。

「ふぅん・・・そうだっけ」

 気のないような先生の声。これじゃ拗ねた僕が莫迦みたいだ。



「・・・生きてるわよ。入院してるけど」

「え・・・?」


 一瞬、囁くようなつぶやきが聞こえて、僕は訊き返す。

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