#043 【努力】 [世界の終りに贈る歌]

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 否定しようとしても、頭が真っ白になってしまって言葉が出て来ない。こんな状態は初めてだ。

「司くんの様子、痛々しくてあたし見てらんない・・・」


 その瞳は、熱を持ったように少し潤んで見えた。



「あなたのお母さんは、あなたにどう接したらいいか悩んでたわ。ただでさえ、男の子って母親には謎の生物なのに」

 頭の芯の辺りが回っているようで、彼女が何を話しているのか段々わからなくなる。

 母が僕を避けているような雰囲気は、なんとなく知っていた。

 そんなこと改めて先生に言われなくたって、ちゃんと・・・僕はちゃんと理解している。


「お母さんはあなたを特別扱いせずに、自然な愛情を注いでいたと思うの」

 自然な愛情ってなんだ?母が僕に何をしてくれたというんだ。

「あなたはそれを当たり前に受け止めていて・・・でも気付いてない、そんなものいらない、って顔してる」

 そんなもの、子供騙しでしかない。それよりも僕が必要としているのは、もっと高度で専門的な知識だ。

 ただそれだけがあれば愛情なんて必要ない。

 なのに・・・この人は僕に何を求めているんだろう?理解できない。


「あなたは・・・何を怖がっているの?」

 そう言って、先生は手を伸ばして来た。

 ひんやりとした細い指が僕の頬に触れて、一瞬身震いする。


 いつの間にか口の中がカラカラに乾いていたようだ。自分の息で喉が焼けそうになる。

 ようやく唾を飲み込んで、声を絞り出す。

「僕は・・・僕は、人と違うから・・・」

「何がどう違うのよ!ちゃんと説明もできないじゃない」

「どうって・・・僕はもう大学の」

「ただ人より記憶力がいいだけじゃない。ただちょっとお勉強ができるだけ」



 ほの香先生は鼻で笑った。

「そんなの、あなたじゃなく百科事典でもコンピューターでも一緒よ」


「それは、ちょっと酷い言い方じゃないんですか?」

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