#042 【ルッコラ】 [世界の終りに贈る歌]

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 僕の脳裏に、昔クビにした家庭教師の顔が浮かぶ。

「僕のことを理解できない人たちは、そうやって見下していました。先生にはそうなって欲しくない」


 僕をちらりと見たほの香先生の視線は、雪のように冷たかった。



 そのまま無言でアクセルを踏み込み、交差点を突っ切る。

「あれ?今の、左に曲がらなきゃ・・・」

「あのねぇ!」

 まっすぐ前を睨みつけたまま、突然先生が大声を上げた。


「あなたは、司くんは、子供、なの!見下すとかじゃなくて、子供が子供らしくして何が悪いの?」

 先生は乱暴にハンドルを切り、踏み固められた雪の道の上でテールを振りながら車はカーブする。

「あっ危な・・・」

 窓に押し付けられ、僕は咄嗟にバーを掴んだ。

 車は信号のない道に入り、猛スピードのまま右折と左折を繰り返す。

「ちょっ・・・先生、落ち着いてください」

「そうやって、司くんが無理やり大人たちを見下してる姿の方が、よっぽど醜いし!」

 叫ぶように言うと、先生はようやく車を停車させて僕を見た。


 暗い景色からかろうじて判断すると、どうやらここは街のはずれにある大きな公園の駐車場らしい。

 歩いて帰れない距離ではないけど、随分家から遠退いてしまった。

「子供のくせに、分別があるような顔して・・・でも、本当は気付いて欲しいって顔して。なのに自覚してない」

 先生の一言一言が、僕の胸に刺さる。息が苦しい。

「そんなこと・・・」

「ないって言える?病気でもなんでも、自覚症状がないのが一番危険なのよ?」

 ・・・自覚症状って。僕は病人じゃないんだけど。

「誰があなたをそんな風にしちゃったの?あなたは実験動物じゃないのよ?」



 否定しようとしても、頭が真っ白になってしまって言葉が出て来ない。こんな状態は初めてだ。

「司くんの様子、痛々しくてあたし見てらんない・・・」


 その瞳は、熱を持ったように少し潤んで見えた。

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