#041 【地形】 [世界の終りに贈る歌]

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「ちゃんと、あたしが安全運転で送り届けてあげるから」

 ほの香先生はあくまでも僕を『子供』として扱うつもりらしい。


 僕にはずっと、それが無性にもどかしいのに・・・



 もどかしい?


 自分の気持ちに驚いて、一気に眠気が吹き飛ぶ。

 何故僕はもどかしさなんて感じているんだ?


「・・・どうかしたの?」

 先生がちらりと僕を見て訊いた。

 すっかり目が覚めて・・・いや、それ以上の、むやみに高鳴る胸を押さえながら、できるだけ冷静に答える。

「いえ・・・なんでもないです」

 そんなはずはない。僕がまさか、誰かに何かを期待するはずが。

 今まで一度だって・・・

「ふぅん」

 先生は興味なさそうに相槌を打つと、お茶のペットボトルを手に取った。



 やがて車は山道を抜け、人工的な灯りが少しずつ増えて来る。

 そして街の入り口付近に差し掛かった時、無人の横断歩道で車は止まった。

 こんな真冬の夜中に、誰もいないというのに、信号は律儀に赤く点灯している。

 隣から先生のため息が聞こえた。

「なんでもないです、って・・・口癖なの?」

 振り向くと、苦笑とも嘲笑ともつかない先生の表情を、信号が青く照らす。

「どういう意味ですか?それ」

 不機嫌に訊くと、今度は明らかに哀れみを含んだ声で返事が来た。

「司くんってさぁ・・・ものすごく無理して、爪先立ちしてるって感じ。そのうち、足がつって倒れちゃうんじゃない?」


 街を南北に横切る大通りを通り抜けながら、先生の表情は硬かった。

「あなた、子供のくせに・・・」

 僕はほとんど反射的に、言い返した。

「子供扱いしないでくださいと言ったはずです」



 僕の脳裏に、昔クビにした家庭教師の顔が浮かぶ。

「僕のことを理解できない人たちは、そうやって見下していました。先生にはそうなって欲しくない」


 僕をちらりと見たほの香先生の視線は、雪のように冷たかった。

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