#040 【ボード】 [世界の終りに贈る歌]

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「別に、何も言ってないですよ」

「ほんとぉ~?まぁ、いいけど」


 疑わしそうな視線を僕に向けながら、ほの香先生は順番待ちの列に着いた。



 望遠鏡での観測は、1グループごとの時間に区切られていたため、僕と先生は代わる代わる覗き込んだ。

 僕が覗いている時、先生が耳元で囁いた。

「・・・ね、すごいでしょ?」

 その声はやたらと耳にくすぐったくて、思わず息を飲む。

「どうかしたの?」

 また耳元で声がする。

 むずむずした気持ちを持て余しながら、僕は咳払いをひとつした。

「なんでもないですけど・・・もうちょっと離れてもらっていいですか?」

「あら、狭かった?ごめんね」

 先生はそう言うと、素直に場所を空けた。



 帰り道の車の中で、僕たちは無口だった。

 BGMに小さくレゲエが流れ、道路はヘッドライトを白く反射させる。

 山の中を抜ける道は、民家の灯りもほとんどない。小さい頃見た夢の中の闇のようだ。

 熱が出ると必ずと言っていいほど繰り返し見た夢。

 真っ暗な中、車に乗せられて、僕はどこかへ連れて行かれる。

 どこに行くのか問い掛けても答えは返って来ない。

 ただ、時々身体で感じる加速と減速、カーブのたびに左右に揺られる感触だけが残っている夢。

 漠然とした不安が残る、静かな夢。


 ずっと寒い所にいたせいなのか、ぼんやりとした眠気が僕を包んでいた。

 夢とは違い、不安感もなく車に揺られ続ける。

 エンジン音と振動を感じながら眠ったら、きっと気持ちいいんだろうな・・・

 僕はそう思いながら、助手席の窓から外を眺めていた。

「眠たかったら、寝ててもいいのよ」

 笑いを含んだ声が聞こえた。



「ちゃんと、あたしが安全運転で送り届けてあげるから」

 ほの香先生はあくまでも僕を『子供』として扱うつもりらしい。


 僕にはずっと、それが無性にもどかしいのに・・・

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