#016 【ジェンダー】 [世界の終りに贈る歌]

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「家庭教師の先生、まだ見つからなさそう?」

 母は弟が自分で食べるのを手伝ってやりながら、困ったような笑顔を僕に向けた。


「人に頼んで探してもらってるんだけど・・・なかなか条件が難しいみたいで」



 どことなく、言葉に違和感があったのに気付く。

「何か問題があったの?」

 母はしばらく考えていたが、やがてため息をついて言った。

「つ~ちゃんには隠しても無駄ね・・・」

 冷や汗が出て来た。まさか、なつめ先生か他の人が、余計なことをばらしたんじゃないよな。

「あのさ、お母さ・・・」

「そこに大きな封筒があるでしょ?その中に履歴書なんかの一式が入ってるんだけど。ご飯食べたら見てみてくれる?」

 母は弟に最後のひとさじを食べさせ終えると、食器を下げに立った。その様子は普段と変わりなく、僕はほっと胸をなで下ろす。


 今日のメニューは僕の好きな物だ。いつもならもっとゆっくり食べるんだけど、『問題』な人物というのもかなり気になる。

 無意識に焦ってしまい、2回も喉を詰まらせた。

 母は気付かなかったけど、妹にはくすりと笑われた。あ~あ・・・かっこ悪い。

 デザートの林檎を食べながら、ソファに座って封筒を開ける。

 履歴書と、簡単な『作文』。それから健康状態について自己申告で書いてもらっている。


 きれいな人だな、というのが第一印象だった。

 『美人』でも『かわいい』でもなく・・・なんの欲も気負いもないような表情で写っている。

 履歴書には特に問題は見当たらない。僕が希望していた経済学部の学生で、その他に得意な分野や趣味にも奇抜さはない。

 母は何を問題視したのかと思いながら、僕はもう一度履歴に目を通す。



「あれ?この人休学中なの?」

「そうなのよ・・・成績は優秀な方らしいんだけど」


 食器を片付けながら、母がうなずいた。どうやらそこを気にしているらしい。

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