#030 【時計】 [世界の終りに贈る歌]

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「やっぱり、現役中学生の体力には敵わないわぁ。年を取ると、どうしても怠け癖がついちゃうから・・・」

 そりゃまぁ、元々の体力差もあるでしょうけど。


 更に言えば、僕は最近ずっと体力やらなんやらを持て余し気味なわけだし。



「もっと色々見て回ろうと思ってたんだけど、そろそろ上映時間になっちゃうわね・・・」

 腕時計を確認して、ほの香先生はつぶやく。

「上映・・・?」

「プラネタよ。今日はこれを観に来たんだから」

 当たり前だ、という顔で先生は僕を見る。

「さ、それ飲み終わったら、早めに行っていい席を確保しておかなきゃ」

 そう言って、自分はさっさとトイレに向かう。

 化粧を直すつもりらしいけど、どうせプラネタは暗いんだから、今直す必要もないと思うんだけど。



 足元が薄暗い中、ほの香先生は僕の手を引いて目星を付けているらしい席に急ぐ。

 想像していたよりもひんやりとしている細い指の感触に、僕は少し緊張する。

 僕は元々、どちらかというと手を繋ぐのは苦手な方だ。

 『彼女』たちが僕に対する愛情表現として手を繋ぎたがるから、それを拒否したりはしないけど。

「司くんの手って、結構大きいのねぇ」

 そんな風に言って、手を繋ぐきっかけを作ろうとした子もいたっけ。


 『彼女』たちとは違い、何の感情も含まれていないような、さらりと乾いている先生の手。

 この手が汗ばむのは一体どんな時なんだろう。

 2人きりの部屋で、先生が息を弾ませる時は・・・

 プラネタ上演直前、暗闇の中でつい余計な想像をしかけてしまい、僕は邪念を払うように首を振る。

 隣に座ったほの香先生が、呑気な口調で僕に囁く。


「司くん、どうかしたの?ひょっとして暗いから眠たくなっちゃった?」

 何故かほの香先生に対しては、隙を見せたくないという気持ちがどこかにある。


 今までの『先生』には、人によっては、わざと隙があるように見せたりもしていたのに。

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