#048 【ドミノ】 [世界の終りに贈る歌]

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 目を赤くしたまま笑顔を作る母を見ていると、何故か罪悪感を感じる。

「別に・・・今までもそういうことあったじゃないか」


「そうよね。お母さん変よねぇ・・・」



 母の言いたいこともわからなくはない。

 楽しかった思い出というものが、僕にはほとんどないからだ。

 まず、レジャーなどで出掛けることが少ないし、子供らしく楽しめた記憶もない。

 だから、また次のことを・・・家族で出掛けるような話なら尚更、口にしたことなんてなかったんじゃないだろうか。


 もっとも、今日だって本当に楽しかったのかどうか、僕自身もわかっていないのだけど。


「その、今日は疲れたからもう寝るよ。おやすみなさい」

 僕は何故だか気恥ずかしくなって、涙目のまま微笑む母に背を向けて階段を上った。



 その日はやたらと熟睡した。

 翌日目覚めた時には、ゆうべ感じた重苦しいまでの絶望感も、心の隅にかすかにこびりつくのみだった。

 シャワーを浴びながら昨日のことを振り返る。

 ほの香先生の言葉は、でまかせとは思えない・・・つまり『教授』たちは、長年僕を利用した上に莫迦にしていたということだ。

 だからといって、何か仕返しをしようという気持ちにもなれない。利用していたのはお互い様だし、世話にもなっていた。

 ただ、今までのように尊敬や信頼を持つ相手としては見れないかも知れない・・・

 それは少し寂しいことだった。


 無性に先生の声が聞きたくなって、朝食の後に電話を掛けてみる。

 8回コールしてようやく繋がり、寝起きらしいかすれた声が聞こえた。

「もしもし・・・誰?サクラ先輩?」



 先生は電話の相手が誰だかわからないらしい。僕は面白くなってくすりと笑った。

「おはようございますほの香先生。久保です。急なんですけど、今日、会えませんか?」


「あぁ・・・司くんだったの。いいけど・・・どうしたの?」

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